Interview

「AAAタイトル」や「Netflixシリーズ」から指名される、鈴木卓矢が考える「頭一つ抜き出る」ための考え方とこれからの背景制作

取締役/モデリング・スーパーバイザー鈴木卓矢

SAFEHOUSEの取締役として『ファイナルファンタジー XVI』や『BIOHAZARD INFINITE DARKNESS』『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』などを手掛けてきた鈴木さん。背景アーティストとして国内外の作品に参加する一方で、後進の育成に力を注いでいます。アーティストとしての成長やこれからの背景制作についてお話を伺いました。


鈴木さんのアーティストとしての強みを教えてください。

僕は、アートに関しての知識ゼロでこの業界に入りました。絵は書いたことがないですし、デッサンすらほぼなしです。Blizzard Entertainmentで働く人たちは表現することがライフスタイルの一部になっているような人が多くて、学生の頃から美術をしっかり学んできた人や、CGの仕事をやりながら趣味でカメラを深く勉強している人や彫刻などアナログなことに取り組んでいる人とかがいます。そんな中「ソフトが使えて、背景が作れて、カッコいいものが作れる」で入社した僕のポジションは野球で言うとイチロータイプです(笑)。「ホームランは打たないけれど、打率は高い」。一発でスッゲーかっこいいものをバーンと出せるわけではないけれど、鈴木に任せておけば確実にいいものができるという立ち位置です。「アートディレクターの言っていることを噛み砕くとこうなる」「あちらの言っていることを取り入れるには……」と。そして最終的に「自分はこの場面の背景はこうしたい!」というイメージに仕上げていくわけです。ディレクターたちの希望に添えるように適時打を打って塁に出る。自分はこうやりたいという思いで盗塁をする。ヒットの延長でホームランをうつことあるけど、しっかり点に絡む動きをするというところでBlizzard Entertainmentでのポジションを築いていきました。

美術的なことを学ばなくてもアーティストになれますか?

やり方を変えて補うことができると考えています。例えばデッサンは観察力を養う作業ですよね。だから、目で見たものを頭で理解して、それを分解して再構築してアウトプットする。ペンがマウスに変わるだけで、頭の中では同じことをしています。ただ、人よりも数をこなして来たつもりです。あと、僕がいつもやっているのは三面図を使わず、一枚のパースから形を取ることをやっています。三面図使ったら誰でも形を取れちゃうから負荷をかけるんです(笑)。要は比率や奥行きを頭で想像してデジタルで造形していく。僕はモデリングをするときに、人よりも「足かせ」をつけてやっているということです。そのことで美術的な素養をカバーしているつもりですし、他のアーティストとは違うアプローチが個性になるのかもしれませんね。

2014年作成のデモリール

小規模の会社でもリアルな映像を作れる会社は増えてきています。ただ、それを使ってカッコいいモノを作れるところは限られます

Unreal Engineでの制作には元々注目していましたか?

元々リアルタイムには全く興味がありませんでした。Blizzard Entertainmentにいた時も何回かリアルタイムエンジンで作った映像を見たことがあったんですけど、ゲームっぽかったんですよね。結局ハリウッドスタイルのパソコンにシミュレーションをかけて計算させるクオリティには絶対追いつけないと思っていました。それから数年後、今SAFEHOUSEでアートディレクターをしている、エラスマス・ブロスダウに出会うことになったんです。彼がUnreal Engineで作ったリアルタイムレンダリングの映像を見て驚きました。今まで見たことがないくらいクオリティが高くて、これなら実際に使えるかもしれないと思いましたし、入れ替わる時代が来るんだと感じました。

エラスマス・ブロスダウが手がけるUnreal Engineで制作したデジタルヒューマン

リアルタイムエンジンでの制作はSAFEHOUSEの強みになりますか?

発注者側からの要望も増えていますし、リアルタイムエンジンで映像を作れることは大きなアドバンテージになると思います。ただ、プリレンダリングの仕事ももちろんやっていますし、リアルタイムレンダリングという手法だけにこだわっているわけではないです。絵づくりを常に意識してやっていますね。すごくリアルなビルを作れる会社はかなり出てきていますが、そのビルをどういう風に配置するとカッコよく見えるかという表現力を持ち合わせたところは多くないんです。リアルだけだと面白くない。アートとして作り上げる技術は別にあるんでしょうね。UnrealEngineを使うことでそういった絵作りという表現がリアルタイムで描写されることはアーティストにとってかなり大きなアドバンテージだと思っています。小さな規模でしっかりとした自分たちの表現を持っているという意味でSAFEHOUSEは唯一無二だと思います。

仕事で喜びを感じる時はどんな時ですか?

仕事を通じてクライアントの価値観を変えられた時はすごく嬉しいですね。あるクライアントのアニメの撮影監督さんが「僕はCGの背景はあんま信じていない。どうしてもデータとして見てしまう」と言っていたんです。要するに2Dのペインターによる感情表現にCGは勝てないと。ところが僕たちが作った背景をみて「今までの価値観が変わった」と言ってもらえました。すごく嬉しかったですね! 20年間CG制作をやってきて一番嬉しかった言葉です。自分のやってきたことは間違ってなかったと思えました。僕たちの作る背景には人の価値観を変える力があると確信しました。

社外でもセミナーなどをしていますが、教育活動が好きなんですか?

好きという感情とは少し違うかもしれませんね。スクウェア・エニックスの時も、Blizzard Entertainmentの時も教えてもらえる環境に恵まれていました。スクウェア・エニックスの時はすごくいい先輩がいて、一からちゃんと教えてくれました。一方で放置されてくすぶる同僚の姿も実際に見てきました。先ほどもお話ししましたけど、Blizzard Entertainmentではアーティストたちが持っている技術や考え方を惜しみなく自分に注いでくれました。そうやって育てられたので、僕もスーパーバイザーとして、先輩として人を育てないといけないという使命感があります。


学生時代はアートブックを買い漁ってました。今もCGにアニメ的な多視点を取り入れられないか研究していますよ!

どんな作品に影響を受けてきましたか?

実は兄貴も映画などのCGをやっていて、それで映像にも興味を持ち始めたんです。映画で一番影響を受けたのは『スター・ウォーズ/ファントム・メナス (エピソード1)』。作品を観たのは20歳くらいだったと思うんですが、その時の衝撃もすごかったですね。表現がチープに響いてしまうかもしれませんが「世界が存在している」って思いました。それからスターウォーズ展に行ったり、アートブックを買ったりしました。あの頃は元のデザイン画や、どういうふうに立体化したかを知りたくて、色々な作品のアートブックを買い漁ってましたね。お金もそんなになかったので、図書券をもらうために町中でおばちゃんがやってるインタビューを受けたりして……一回で1,500円分もらえたんですよ(笑)。あの頃は泥臭い勉強の仕方をしてました。多分美術を専門的に学んでいないことのコンプレックスで、それを埋めようと必死だったんだと思います。

今でも創作のために勉強をしていますか?

今は手札が色々あるし、自分に足りないものもわかっているつもりです。なのでその部分を勉強しているって感じですね。昔は映画館でCGをふんだんに使った派手な映画をを見るのがすごく好きだったんですけど、今はそういった映画をあまり見に行かなくなってしまいました。若い頃は結局自分の知らない技術を学ぶために映画館に行っていたんだと思います。だから、自分が映画と同じクオリティのものが作れるようになって、どうやってこれ作っているんだろうという発見が、CGを前面に押し出した映画から離れていってしまった理由かもしれません。今は色使いがきれいとか、カメラの見せ方が良い、世界観が好きとか、CGのモデリング技術ではなくそういった演出の所で映画を見ることがおおいです。今は技術優先からその技術を使ってどう表現すると人は感動するのかというところに興味がシフトしている感じです。例えばピクサーとかディズニーとかってすごいじゃないですか。万人に受ける作品を作り続けてる。彼らの作品から、技術を使ってどう表現するかや、ストーリーを際立たせるための背景表現について学んでいます。ジブリの背景は多視点だったりするんですけど、16:9のフレームの中により多くの情報を内包させて、見る人の想像を促すためになんですけど、この仕組みがカッコ良さや空間の広さを感じさせて感動をうむわけです。ところがこれって僕たちがいつもやっているフォトリアルなCG作品では不可能なんですよ。リアルなものができてしまうので……。アニメ作品にある、普段見ている以上の情報を、脳に処理させるような仕組みをCGでやるにはどうすればいいのか、ここを研究しています。

今後、背景の制作者は何が求められると思いますか?

すごく難しいんですが……結局AIが出てくると「モノを作る」という工程は少なくなってくると思います。これは随分前から思っていて、その時に僕たちがすべきことはAIが作ったものに対して、それが良いのか悪いのかをちゃんとジャッジをすることです。AIが作った絵に対して単純に「カッコいい」とか、評価するのではなく、ストーリーラインにそっているかというところで判断することが重要です。そこをジャッジできるのは人間だけですから。AIが作ったデータは人間が見る作品の映像としてデータを作り替えないといけません。だからモデルが上手に作れるということよりも、そのモデルをどういうふうに見せれば良い映像になるかを考え、モデルを作った先の表現ができることがより重要になっていくと思います。カッコいいものがなぜカッコいいと感じるのかを自分で理解して、意図的にそれを出せるようになる。CGの制作者はそこを求められるようになると思います。

最後にSAFEHOUSEで働くことに興味がある人にメッセージをお願いします。

少し臭いセリフになってしまうんですが、新卒、中途に関わらず背景に愛を持って取り組める人と一緒に仕事がしたいです。「自分の表現で作品を良くしよう」みたいな人です。自分の世界観を表現したり、背景でストーリーを伝えたい人。ただ作るだけじゃなくて、自分なりの表現を持っている人がいいですね。ただ、自分の世界に固執するわけでもなく、自分のアートをエンターテインメントとして世界中の人に喜んでもらえるように、いろんな意見を柔軟に取り入れて自分を変えることのできる人。そういう考えの人と一緒に作品を作っていきたいです!

鈴木卓矢さんのインタビュー前編はこちら

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