ベテランアニメーターがBlizzardで得たものとは
アニメーション・スーパーバイザーレイ・シュー
Blizzard Entertainmentのシネマティックチームで、『オーバーウォッチ』や『ディアブロ』など数々の人気ゲームのアニメーション制作に携わり、2023年10月にSAFEHOUSEのスーパーバイザーとしてジョインしたレイ・シュー(Ray Hsu)。
SAFEHOUSE代表作『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』のアニメーション制作にも携わる他、自身が代表を務めるスタジオANIMGURUでは、若手アニメーターの教育も行うなど、精力的な活動を続けています。そんな彼にこれまでのキャリアについてや、普段どんな想いで制作に取り組んでいるかを訊ききました。
こんにちは、レイさん。まずは自己紹介をお願いします。
こんにちは皆さん! 私はレイです。私は現在SAFEHOUEのアニメーションチームでスーパーバイザーを勤めており、台湾のアニメスタジオANIMGURUのCEOでもあります。私はソニー・ピクチャーズ・イメージワークスでアニメーターとしてのキャリアをスタートしました。『アルビンとチップマンクス』や『スマーフ』といった人気アニメ映画作品の制作に携わった後、熱意と興味のあったゲーム業界への転身を考えて、Blizzard Entertainmentのシネマティックチームに加わりました。そこで9年間在籍して、『オーバーウォッチ』、『World of Warcraft』、『StarCraft』、『Diablo III』といった作品のアニメーションを制作したのです。
Blizzardでは完成度の高め方を学びました。ディテールが作品の良し悪しを決めるんです
アニメーションチームではどのような人が求められていますか?
まず、その人のデモリールをよく確認します。それから、一緒に楽しく仕事ができるような人柄か性格も見るようにしています。才能を持ち合わせた人との仕事はワクワクするし、冗談を言い合えるチームでは楽しく仕事ができますよね。アニメーターは常に話し合いを重ねながら仕事をしているので、コミュニケーション能力は大切なんです。私は過去にピクサーのクラスに通っていたのですが、指導担当は2人とも仕事に関しては天才的で、ユーモアに溢れた人でした。彼らは普段の生活でも楽しむことを忘れません。私が才能と面白さの両方を兼ね備えた人と働きたいと思うのは、その影響もあるかもしれません。
Blizzardのシネマティックチームとの仕事から何を学びましたか?
作品の完成度を高める方法について多くのことを学びました。ひとつ良いエピソードがあるのでお話ししましょう。入社してすぐ『StarCraft』の「Zerg」というエイリアン型キャラクターの動きを担当することになりました。映画では通常、こういった作業には長くても4時間しかもらえません。しかし、この時のスーパーバイザーは10時間もかけてよいと言ってくれました。四肢動物の動きを解剖学的に、よく理解して欲しかったのだと思います。それから、たくさんの参考資料も与えてくれました。結局「Zergの動き」には完成まで1週間もかかってしまいましたが、このプロセスで多くのことを学びました。特にディテールにどれだけ注力すべきかについて知るよい機会になりました。
スーパーバイザーとしてチームメンバーを指導するようになってからは、Blizzardのシネマティック・アーティストとしてどのようにあるべきか、より真摯に考えるようになりました。些細な動きが作品に大きな効果を与えることもあります。Blizzard退社後も一つひとつの場面の完成度を高め、作品のクオリティを上げるために毎日取り組んでいます。
アニメーターになるきっかけになった映画やテレビシリーズはありますか?
映画『ロード・オブ・ザ・リング』です(笑)。実はアニメーターとして成功したいとは、元々思っていなかったんです。大学在学中は映像について広く学んでいましたが、人体などのモデリングが得意でした。ただ、アニメーションは全授業の中で一番苦手で、初めて作ったアニメーションは酷くて、まるでゾンビ……よりももっとひどい動きでした。その頃、すでに大きな映画会社での就職が決まっていた大学院生と知り合いました。作品を見せてもらったのですが、本当に素晴らしくて。画面から目を離すことができず、何度も繰り返して映像を観ました。どうすればこんな作品が作れるのか知りたかったのです。 幸運だったのはピクサーのクラスで教えてくれていた指導員が、どうすればアニメーションとして作ることができるかを教えてくれたことです。これがきっかけでアニメーターになる決断をしました。
メンバーにとって良きメンターでありたい。迷った時はジブリやピクサーの作品を見返します
どんなアニメ作品に影響を受けましたか?
ジブリやピクサーの作品には大きな影響を受けてますし、今でも大ファンです。キャラクターが生き生きしていて、ストーリーがインスピレーションを与えてくれます。アニメーションの名作はたくさんありますけど、仕事で何か疑問を感じた時に戻ってきて見るのは、この二つのスタジオの作品ですね。何度見返したか数え切れません。
スーパーバイザーとして、さまざまなタイプの人と接することになるかと思います。人をまとめるリーダーとして、最も大切なことは何でしょうか?
アーティストにはそれぞれ個性があり、それがアーティストたらしめていると思います。スーパーバイザーとしては指導者というよりも、メンターのような存在でありたいですね。メンバーたちが学び続け、それぞれの分野で力を発揮することを願っています。たとえ別の仕事に就いたとしても、私たちから指導を受けたと言うことができますしね。みなさんご存知の通り、スタジオは忙しいのでたくさん話をしたり、レクチャーすることはできません。ただ、カットは必ず修正しますし、その理由もちゃんと説明します。アーティストとしては、何度も直しを出されるのは辛いかもしれませんが、良い作品づくりのためには不可欠です。修正指示を通して、成長を促し、気づきを与えられると良いと思っています。
仕事で最もやりがいを感じるのはどんなところですか?
最もやりがいを感じるのは、私の作品を見た観客のリアクションを見ることです。観客は作品を通して反応したり、何かを得てくれます。だから、エンターテインメントって言うんですよね? 良いアニメーションを作り、観客がそれを楽しむ。私たちの作品づくりが正しければ、素晴らしさを感じてもらえるでしょう。ここが一致するかが、私にとってのやりがいです。自分の関わった作品が公開されて、それを楽しみにしていたり、気に入っている様子が伝わってくるようなコメントを見るときが何よりも幸せな瞬間です!
インタビューは以上です。最後に現役のアニメーターや、これからアニメーターを目指す人に向けてメッセージをお願いします。
どうもありがとうございます! このインタビューを見てくれた人と、将来一緒にアニメーションの仕事ができることを楽しみにしています。