ハリウッド作品を手がけたシネマティックアーティストがグローバルな作品を成功に導くための秘訣
シネマティック・スーパーバイザー中原さとみ
フリーランスのジェネラリストとしてNHKの実写合成やフルCG映像制作に携わり、カナダのVFXプロダクション「MPC」でデジタルマットペインターとしてハリウッド映画の現場で活躍した中原さん。SAFEHOUSE入社後はリードシネマティックアーティストとして『FRONT MISSION Left Alive』『仮面ライダーセイバー』など映像、ゲーム作品を手がけてきました。アーティストとして作品に関わる一方で、チームづくりや若手の教育にも注力しています。そんな彼女にグローバルな作品での体験や幼少から影響を受けてきた作品などについて訊きました。
自己紹介をお願いします。
SAFEHOUSEでシネマティックスーパーバイザーをしている中原です。東京都の出身で、美術大学を卒業した後にフリーランスでCGを始めました。ジェネラリストとしてNHK大河ドラマなどの実写合成やフルCG映像制作などに携わってから、鈴木卓矢(SAFEHOUSE取締役)のチームに参加するようになりました。その後にカナダに渡ってMPCというVFXの会社でデジタルマットペインターとして作品づくりに携わって、今はSAFEHOUSEでUnreal Engineを使った映像制作をしています。
SAFEHOUSEで働くようになったきっかけを教えてください。
私がフリーランスをしていた頃に当時別会社にいた鈴木(SAFEHOUSE取締役)にお世話になっていたんです。カナダから帰国するタイミングで、鈴木からSAFEHOUSEでシネマティックの日本チームを立ち上げるからと、声をかけてもらったのがきっかけです。
SAFEHOUSEのシネマティックチームで、中原さんはどのような仕事をされていますか?
制作のクオリティーやスケジュール管理、若手の教育がメインですが、実作業もしています。他の会社のCGスーパーバイザーに近いこともしてます。
SAFEHOUSEの良いところはどんなところですか?
いろいろなチームやプロジェクトで仕事をしてきましたが、キャリアに関係なく意見を言えたり、逆に意見して貰えたりする風通しが良い環境だと思います。アーティストに限らずマネジメントチームも自分の意思で少しでも良いものに仕上げようという人が多いので、良い創作ができています。
グローバルな作品をつくる時には、仲間のバックグラウンドに合ったコミュニケーションが大切です
カナダでお仕事をすることになった経緯を教えてもらえますか?
CGを始めた頃から「海外で仕事をしました」というキャリアが必要だと思っていたんです。今はそのことがそれほど重要だとは思いませんが、当時は海外に行ってスキルを磨いたり、経験を積んだりしてこようという流れがありました。周りを見ていて、実際に海外でのキャリアが有利に働いている場面をよく見ていました。あとは母親が若い頃にアメリカに住んでいたことも影響しているかもしれません。ただ、仕事が決まるまでは結構大変でした。カナダに渡って半年ぐらい語学学校に通い、1-2か月は求人に応募を続けましたが、全くオファーはなく……。もうカフェのバイトを始めようと思い、面接に受かった帰り道にやっと一社から声がかかりました。
海外で仕事をするためにどんな努力をしましたか?
オファーをもらうにはデモリールがどれだけ充実しているかが重要だと思っていました。私は実写の作品からはじめて、海外でも知られている鈴木のチームに入れてもらったりと、かなり戦略的にキャリアを積んできたと思います。海外で働いている人で「応募したら、なんか受かっちゃいました」って人はあまりいないと思います。
キャリアの中で最も大変だったことを教えてください。
ある大規模な作品を複数の海外チームと協力して作ることになったのですが、アーティストとしてだけではなく、管理能力が試されるようなプロジェクトでした。カナダでの経験もあり、SAFEHOUSEではいろいろな国籍・バックグラウンドを持つ人が働いているので、異なる価値観の人と働くのはなれているつもりでしたが、遠く離れた初対面の人と数少ないオンラインミーティングとSlackでのやり取りだけを頼りに、作品を仕上げていくのは骨が折れました。特に世界最高水準の作品を作ることが前提だったため、クオリティや発想、スケジュールにおいてチーム一人ひとりの全力を引き出す必要があったんです。そんな大変な中、チームのみんなが少しでも気持ちよく仕事ができるように取り組みました。物理的にも心理的にも離れた状態から仕事を始めるにあたって、コミュニケーションを円滑にするポイントを2点見つけました。一つ目は「忙しくても仕事以外の無駄話をする」です。お互いどんな人かわからない状態で気持ちよく仕事を始めるのはかなり難しいと思います。仕事と関係のない話をすることで心理的な距離感はグッと縮まるように感じました。二つ目は「笑顔をたやさず、相手が冗談を言った時にはためらわず笑う」です。冗談は相手の国の文化が理解できていないと難しい時もありますが、笑うことで共感を伝えられるし、場を明るくします。
小学生の頃から『攻殻機動隊』をコマ送りで見ていました
いつからCG映像制作に興味を持ちましたか?
大学四年生の終わり頃です。美術大学だったので周りは「就職ができなくてどうしよう……」という人ばかりでした。元々はレタッチャーの仕事に興味があったんです。広告で女優さんのシミを消したり、輪郭を整えたりする仕事です。ちょっとミーハーだったので楽しそうだなと思って。ただ、レタッチャーの仕事は極端に少なかったんです。それで、レタッチをしている会社では3DCGの求人が多かったので興味を持ちました。初めは右も左もわからずでしたが、だんだん仕事で認められ、自分の得意分野が分かるようになるとともに、CGの奥深さや面白さもより分かるようになっていきました。
何が中原さんにインスピレーションを与えますか?
美術館や映画、漫画、アニメ、本はもちろんですが、ファッションやインテリア、食事、音楽など仕事の範囲外でも興味がたくさんあるんです。それらの色んな経験からインスピレーションを少しずつ受けていると思います。
シネマティック・アニメーションで最も影響を受けた映画/テレビ番組/ゲームはなんですか?
一つあげるのはすごく難しいのですが……。小学生のころに見て衝撃的だったのは押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』と今敏監督の『パーフェクトブルー』です。子どもながらに映像の「質」「情報量」に圧倒されていました。あまりに好きで、当時VHSのビデオテープをコマ送りにして見ていたことを覚えています。中学生くらいから漫画家の富沢ひとし先生の作品にもハマり始めました。浪人中は富沢先生の絵を真似て書いたりしていました。大学生のころは撮影監督のコンラッド・L・ホールのライティングとレイアウトが好きで見てました。『ロード・トゥ・パーディション』はレイアウトとライティングが素晴らしいですし『アメリカン・ビューティー』は映画としても好きです。日本人の映画監督だと『家族ゲーム』で有名な森田芳光監督や『東京物語』の小津安二郎監督は「素晴らしいレイアウトを切るな〜」と思います。わりとレイアウトが面白い作品が好きかもしれません。
基礎を大切に、信頼関係の中でキャリアを築くのが成功への近道です
仕事で一番大切にしていることは?
信頼関係です。学生時代から自分一人で作品を作り上げることに限界を感じていました。私自身は、人と仕事をして大きなものを作り上げる方が向いていると思っています。人と仕事をするにあたっては信頼し合える関係を築けるかどうかが重要だと思います。
シネマティックアーティストになりたい人へのアドバイスはありますか?
映像(撮影技法)の基礎教本を3冊くらいは読むのがオススメです。私もそうだったんですが、初心者は有名な映画監督のキャッチーで写真多めの本を読んで分かったつもりになりがちです。一冊読んでもその著者のカラーが強いので偏った知識になってしまいがちです。最低でも3冊読むと共通する重要なことがわかってくると思います。
インタビューは以上です。最後に現役のシネマティックアーティストや、これから目指す人に向けてメッセージをお願いします。
AIや技術の進歩によって、一点突破のワザだけで多くのCGアーティストが生きていくのはなかなか難しいのではないかなと最近感じています。これから、映像を自らつくれる力というのはより求められていくと考えていて、SAFEHOUSEのシネマティックアーティストはその力をつけるのに最適な場所だと思っています。色々やりたいことがある人こそ、ぜひ来てもらえたらうれしいです!